学校経営支援システム E-School
あゆみサブシステム



◇一人も見逃さない児童理解をめざして◇
平成21年度西尾市教育論文
「学校経営支援システムの開発と成果」から抜粋
筆者:名倉満雄

 筆者は西尾市教育委員会教育補助者として勤務しつつ、当システムの開発・改良と普及に携わってきた。その成果を教育論文としてまとめたが、そのなかで特に「一人も見逃さない児童理解」をという命題に関わる部分を抜粋して紹介します。昨今、児童のいじめ問題や不登校、自信喪失といった社会的な課題が、事件として報道されるなど、大きな社会問題となっています。そのような難題に取り組む方々とって、解決の一助となることを願っております。

1.はじめに
 西尾小学校では平成17年4月からE-SCHOOLと名付けた学校経営支援システムの利用を開始し、169回のバージョンアップ(平成21年1月時点)によって進化を続け、学校に不可欠なツールになっている。本システムはデータベースを校内サーバーに、30数台の端末機に処理プログラムを格納した本格的なオンラインリアルタイムシステムとして安定稼働している。また、パスワードや職務毎の権限付与で、システムの安全性に万全を期している。システムの全機能は以下のようであるが、ここでは「一人も見逃さない児童理解をめざして」に絞って、その機能の概要を紹介する。

児童名簿
あゆみの記録
健康診断票・体力テスト管理
児童作品登録
成績処理
出席簿
給食実施簿
学校日誌
保険日誌
業務連絡・掲示板
施設予約
校内メール
学費請求・未納管理
会計簿
週指導案作成
道徳教育支援
簡易問合せ
職員名簿
認証
など


2.一人も見逃さない児童理解をめざして
 E-SCHOOLの利用以前、西尾小学校では児童一人ひとりの理解・指導・評価のために紙媒体の「カルテ(心のあゆみ)」が有効な手段と考え、児童の気になる行動を記録し職員回覧を行ってきた。特に、近年増加してきた発達障害、母子分離不安、登校しぶり、自信喪失の児童などの支援に職員の協力体制を作るために有効と考えられていた。しかし、回覧に時間と手間を要し、また、紙ファイルの「カルテ」から必要な情報を抽出して活用するのに不便で、期待するほどの効果が得られなかった。加えて、個人情報を回覧することに対する不安が残ったままであった。

 そこでE-SCHOOLでは、この「カルテ」をデータベース(電子カルテ)化し、全職員が同時に瞬時に記録・閲覧ができるシステムにした。これを実際に利用して、この有効性の実感が引金となり、養護教諭を中心に、これまで、できなかった子ども情報のデータベース化をめざし、次々と新しいアイディアが生み出された。そして以下に述べるようなシステムへと成長してきた。


3. あゆみの記録(電子カルテ)
 先に述べた「カルテ(心のあゆみ)」の電子化版(資料1)である。ここに子ども達のいつもと違う行動、嬉しかったこと、気がかりなこと、好き嫌いなどの情報を僅かな時間で書き込めるようにしている。同時に、書き込むことや読むことで、教師間の意見交換や連携が活性化され、個々の事象の背景・原因、対策などを深く考察するようになり、より的確な指導が学校組織の総力としてできるようになった。

@ 電子カルテ作成上の留意点
ア.6年間にわたる記事の蓄積
イ.保健執務日誌の内容もカルテ化
ウ.記事を分類し、検索を可能化
エ.記事の重み付け(心配⇔改善)、表示順序の制御可能
オ.担任既読マークの付加
カ.子ども顔写真の付加(全教職員が児童を特定できる)
キ.パソコン画面での指導会議等の作成

A あゆみトーク」機能の組み込み
記事を読んだ職員が、記事に関連する情報を追加記入できる機能で、更に事象の理解や職員の解決意欲の向上をはかることを目的としている。



【資料1 あゆみの記録の画面】

 以下にこの機能で成果を得た事例について、実際の記事で紹介する。


<事例1>教師同士の連携が奏効した事例(資料2)
【表題】正直者・・・
【記事】国語のドリルテストを返した。A君は最初100点であったが、採点ミスを自ら言いに来て98点となった。自分で言いに来たことを「正直者だね。」ととても評価したが、100点をとったらお家でなにかご褒美があったらしく、98点になってしまった後泣いていた。


【資料2 教師同士の連携が奏効した事例】

 この記事を読んだ別の教員が次のような「あゆみトーク」を返している。

【あゆみトーク】「正直点2点」をプラスして100点にしてはいかがですか?それができないなら、「100点よりよいご褒美をあげるようにしてほしい」と保護者にお願いしてほしい。

 これを読んだ担任は早速保護者にこのことを電話した。A君は母親から褒められ、ご褒美をもらい正直の大切さが身に染みたということであろう。E-SCHOOLのよさが確認できた事例である。


<事例2>母子分離不安の児童の支援事例
母親の心の安定と、多くの教職員の支援で児童Bに変容がみられた事例(資料3)

【資料3 母子分離不安の児童の支援事例】
【表題】朝から元気(9月29日)
【記事】朝、玄関で「体育がいやだ」と言い、「見学でもいいよ。」というと、母親と「バイバイ。」と言ってわかれた。友達と一緒に教室まで行き、元気よく一日を過ごす。いやだと言っていた体育も、特に何事もなかったかのように参加し、がんばって取り組んでいた。授業後「体育もやったね。」と言うと、「やってないもん。」と言っていた。ちょっと、不思議


【表題】母親、カウンセリング受ける(9月30日)
【記事】朝、友達の出迎えより先に到着したため、誰もいなかったことで、少し泣けた。教室に入ればだいじょうぶ。母親は、午後山本SCさんのカウンセリングを受けるため西中へ。私は紹介のところまで同席。次週は、児童B自身と面談するための予約を入れる。母親も少し冷静に物事が考えられるようになった。


【表題】多くの人たちに支えられて(10月7日)
【記事】登校時、玄関でぐずっていたB君を見かけた用務員の小林さんが、「いい靴履いているね。脱いで見せて」と、声をかける。うれしかったのか、靴を脱いで見せてくれ、そのままシューズを履きに行った。ちょっとした声かけで、B君の心が切り替わった。多くの人たちに支えられて子どもたちが育っていくことを実感。


【表題】12月の様子(12月22日)
【記事】冬休み直前は、昇降口から誘われなくても一人で教室まで来られるようになった。表情もよく、友達関係も落ち着いていて、とてもよい。

児童Bの課題は母親から別れる際の気持ちの切り替えであった。電子カルテで、児童Bの状況を知っていた用務員の「靴を脱いで見せて」という言葉が功を奏した事例である。


<事例3>発達障害の児童の支援事例
 保健室には淡水魚やカメが飼育されており、子どものクールダウンや心を癒す場所として活用されている。全職員は電子カルテで「児童Cはタナゴを見ると心が落ち着く」ことを、知っており、全員の支援体制が成果をあげた事例である(資料4)。

【資料4 発達障害の児童の支援事例】
【表題】タナゴとヨシノボリ(6月23日)
【記事】始業前、校長室へ、重い水槽を持ってきてくれた。中にはタナゴが10匹、ヨシノボリが1匹、タニシが一つ、水草が2つ入っていた。おじいちゃんが飼っていたものをくださったのだ。「どこに入れるのかな?」と聞くので「昨日、保健室の前に用意しておいたタライに入れるんだよ。」というと、「じゃあ、僕も見に行きます。」といってついてきた。妹さんも一緒であった。


【表題】ヨシノボリ(7月11日)
【記事】3時間目、保健室で休養している時「校長先生、ヨシノボリは、ハゼの仲間だよ。おなかのところに吸盤が付いているんだよ。ハゼも一緒だよ。」と教えてくれた。淡水魚についての知識量は相当なものである。


【表題】タナゴのえづけ(7月6日)
【記事】3時間目、プールに入るために並んでいた時、「校長先生、タナゴはねえ、えさをやる時に、水槽をコンコンとたたくと、それがえさをやる合図になるんだよ。」と教えてくれた。「そうするとねえ、コンコンとたたいただけで、えさがもらえると思って集まってくるんだよ。」おじいちゃんのところでよく観察をしているらしい。


【表題】箱の中が大好き(8月2日)
【記事】3年出校日。水泳指導が終わった後、教室で日誌の答え合わせをしていたが、「ぼく、分からない」と言って、パニックになった。「保健室のタナゴをみてきたら」とすすめたところ、「ぼく、行ってくる。」と言って、保健室に出かけたが、保健室は閉まっていた。興奮状態で教室にもどって来たC君に、どうしたいか、たずねると、「この箱の中に入りたい。」と言って、おしりがやっと入るくらいの野菜ジュースの段ボール箱に入ってしまった。箱の中に入ると、気持ちが落ち着くようで、1年生のときにも、C君用の箱が教室に用意してあったとのこと。翌日、「先生、きのうはあばれてごめんなさい。」と言ってきた。


【表題】お片づけができなくて家出(8月30日)
【記事】午前10時頃、パジャマにサンダル姿のC君が職員室に入って来た。「ぼく、がまんできなくて家出して来た。」と言い、杉浦彰先生が話を聞いてくださった。母親から自分のおもちゃを片づけるように言われていたが、やらずにいて、母親に叱られたらしい。家に連絡をとり、学校の中を回り、保健室のタナゴを見て、心が落ち着いたところで、家に帰った。担任が学校にいなかったので、学年の杉浦先生と生徒指導の古沢先生に対応していただいた。


【表題】全校朝会(9月5日)
【記事】8:20 C君が本館北通路の渡り板に座った。「おはよう」と声をかけたが、なにやら考え込み反応がない。近寄ろうとしたら東側に隠れた。しばらくしてから、「タナゴ見に行こうか」と声をかけたら、「体育館シューズがない」と答えた。シューズが教室にあることがわかり、一緒にシューズを取りに行き体育館へ向かった。体育館に入ると、舞台階段で座った。声をかけると学級の列にすぐ入った。朝会の校長先生の話にはよく反応し、質問に手を挙げ、「羊」を答えた。「タナゴ」から口火を切ったのがよかったと思われる。

 以上のことからも、電子カルテを通して情報を共有し、解釈・交流することで、子どもの理解を高め教師集団の教育力を高めることに大きな成果をあげていることが分かる。


 次に関連画面を紹介する。資料5は特定の児童の「あゆみの記録」を検索し、時系列に表示したものである。


【資料5 あゆみの記録の検索画面】

 資料6は5年間のあゆみの記録の集計件数である。この画面で件数をクリックすることで該当児童の記録を読取ることができ、児童の変容や支援内容の理解が容易となる。


【資料6 あゆみの記録の児童別件数表示の画面】


4. ウォッチ(抽出児童の共通理解)
 特に注意深い見守りが必要とされる児童を抽出し(資料7)、その特徴などを職員間で共有・周知する機能である。この中の一部の児童については、更にきめ細かな情報を「個別支援カルテ」で管理できるようにしている。


【資料7 ウォッチの画面】


5. 個別支援カルテ
 主に発達障害などの問題を抱えている児童について、きめ細かに情報を管理し、手厚い見守りが出来るよう工夫している(資料8)。 収録情報は氏名、生年月日、障害の状況と診断、保護者と家族構成、関連機関とその対応、あゆみの記録一覧、支援の履歴などである
 個別支援カルテの作成に当たっては、極力事務を軽減するために、あゆみの記録(電子カルテ)の特定の記事が自動的に挿入されるようにしている。そのため担任が電子カルテを記入する時に、記事の分類に「月まとめ」か「支援会議」を選択することで、「個別支援カルテ」を意識しなくても、自動的に作成されるようにしている。


【資料8 個別支援カルテの画面】


6.あゆみっこチェック
 子どもの発達の様子をマクロ的に評価し問題点を明らかにしようという目的で、「読み書き算数」「集団指示」「集中持続」「整理整頓」「友達関係」、「プール参加」や「マラソン参加」の可否などをチェックできるように機能である(次ページ資料9)。
年3回チェックを実施することで先入観をなくし、児童の変容を柔軟にとらえられるようになった。また、年度末の学級編成資料として大いに役立っている。


【資料9 あゆみっこチェックの画面】


7.健康診断・体力管理
 健康診断と体力テストの記録をデータベース化し、各種統計、管理諸表、保護者への通知書類の作成を簡素化するための機能である。


【資料10 健康管理の画面】
 従来の体格統計処理では、平均値・標準偏差などの計算処理は別個のソフトで行う必要があったため、名簿作成などの準備作業、計算処理などパソコン操作の負担が養護教諭一人に集中し、平時は子どもへの対応で時間がさけず、夏期休暇中に行わねばならない程であった。

 さらに、歯科、眼科、内科などに所見が指摘された児童の保護者へ要受診をお知らせする案内文書の作成も自動化され、この点においても養護教諭の負担が著しく軽減できた。


【資料11 体力統計の計算例】


8.まとめ
 今E-SCHOOLは、西尾小学校には不可欠なツールとして定着している。特に「あゆみの記録」は平成22年1月12日現在21,907件に達しており、職員にとって無くてはならないものになっている。

あゆみの記録(電子カルテ)登録件数 平成22年1月12日現在
平成17年度
平成18年度
平成19年度
平成20年度
平成21年度
3,093件
6,937件
5,057件
3,963件
2,857件
合計 21,907件


 学校現場の改革には、この様な取り組み、即ち、学校の変容に追従しながら先を見据えた改善とデータベース構築ができる組織・環境の確立が有効であるし、可能であることが実証されたと言える。
以上
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